「ピンチの法則」

今月は「ピンチの法則」について書いてみたいと思います。

どんな小さな会社でも、経営者は一国一城の主です。少ない社員数であっても、経営者ならば、自分を信じて入社してくれた社員と、その家族の人生に大きな責任を感じています。経営が順調な時は、社員の喜びを我が喜びとし、生きがいをもって社長業に励むことは容易いでしょう。

この心境を保つのが困難になるのが「経営的ピンチ」に陥った時です。

経営者は業績が悪化し資金繰りに窮し、先の見込みが立たなくなってくると、いつものように冷静な判断ができなくなりがちです。ほとんどの経営者の皆様は、ピンチの中、日々焦燥感に駆られて「夜も眠れない」経験をされたことがあるのではないでしょうか。そんな時には茫然自失として、周囲の助言も耳に入らなくなることもあるかと思います。

しかし好調不調というものは周期的にやってくるものです。

「朝の来ない夜はない」のですが、不安に駆られるあまり、言わずとも良いことを社員に言い始め、やらずとも良いことをやり始めます。例えば、急に値下げをしてみたり、組織をいじり始めたり、誰かに責任転嫁をしてやり玉にあげたり、苦しさから、およそ理性的とは思えない行動をし始めることがあります。

経営者によっては、現状の苦しさのあまり起死回生を狙い、本業とはまったく関係のない「門外漢」の商売に手を出し、「チャレンジすれば打開の道が拓けるのではないか」などと淡い期待に社運を賭ける方もいらっしゃいます。しかし「本業から逃げるような精神状態」で始めた商売というものは、そのほとんどは上手くいかないものばかりです。

ピンチとは法則です。
人生においてピンチが一度もないということはありません。
ピンチは誰にでも必ず訪れます。

そしてピンチは経営者にとって、永続的に発展してゆくために絶対的に必要な「竹の節」のようなものです。「ピンチの法則」を知っておくだけでも「経営の転ばぬ先の杖」として大変役立ちます。

- ピンチの法則 -

1) ピンチは人生のリズムのようなものなので周期的にやってくる。用心・予防しても、すべてを避けることはできないことを心得ておくこと。

2) ピンチに陥るときには、身辺に起きることがどれもマイナスに働くので八方塞がりに感じるものである。

3) ピンチに陥ると、奈落の底にでも落ちるような不安に襲われるが、それは心理的なものに過ぎず、必ずどこかで底に足が届く。しかしそれには必ず一定の時間の経過を要するものである。

4) ピンチの折り返し地点は、恐怖に陥って想像したよりもかなり上のほうにある。つまり人間は自分で考えた最悪のところまでは、なかなか落ち込まないものである。

5) ピンチから這い上がるきっかけは、ピンチに陥る前に考えていたようなところからは生まれてこない。苦しみに鍛えられ、苦しみが薬になってはじめて次の対策が生まれるのである。

(邱永漢著 『朝は夜より賢い―私の体験的ピンチ脱出法』
、PHP文庫)

経営者の力量に「損に耐える力」というものがあります。

経営者となって幾度かピンチを脱出した経験を積まないと、この「胆力」は鍛えられないもののようです。経営者も有段者にならないと、ちょっとした損でも「これが未来永劫続いたらどうしようか」という不安感に襲われてしまいます。そんな時にも顔色ひとつ変えずにジッと耐えて、打つべき手を淡々と打ってゆくことが、この「胆力」を鍛える修練となります。

「時間に勝る名医はない」とは言いますが、耐えることは実に難しく、経営者の大事な徳目のひとつです。

筆者も拙い経験ではありますが、ピンチと思える状況に何度か遭遇したことがあります。そんな時は、すべての重要な判断をいったん棚上げして、心を落ち着けるために先人の智慧を学ぶように努めています。

「吾かつて終日食わず、終夜寝ず以て思う、益なし、学ぶに如かざるなり」
(私は以前、食わず寝ずに考えたが、読んで学んだことには及ばなかった)
「論語 衛霊公篇」

聖人孔子でさえこう言っていますので、この方法がもっとも良いように思います。
ピンチの時こそ、楽観的に考えて「泰然自若」としていたいものですね。

最後に、筆者がピンチに陥った時に読み返す言葉をご紹介いたします。

- 朝は夜より賢い -

夜考えることは過激すぎるか、悲観的になりがちです。
君よ、考え疲れたら、ベッドに入りなさい。
明日から先のことについては、朝になってから考えてもまだ充分、間に合います。

(邱永漢著 『朝は夜より賢い―私の体験的ピンチ脱出法』
、PHP文庫)

(紺)