「不況の乗り切り方」

今月は「不況の乗り切り方」について、一般的な経営の手の打ち方という観点で参考になるかと思いますので書き進めてみたいと思います。

まず好況期・高度成長期には、売上がどんどん拡大し、それにともなって組織もどんどん大きくなります。
好況化は組織が拡大してゆきますので、経営者が部下に対して権限委譲を進めないと、
成長するビジネス環境下において、仕事はまわらなくなってゆきます。

経営者と社員の間の階層構造がボトルネックとなり、各所の判断に必要な情報伝達を遅らせてしまい、成長のスピードに追いつけなくなるのです。
売上が拡大している時期においては、多少の能力不足があっても部下に権限委譲すべきであり、
権限委譲しないほうが組織にとってのデメリットが大きくなるのです。

しかし不況期に突入するとこれが真逆になります。
不況期にはこの権限委譲型が破綻することが多いので気をつけなければなりません。

欧米型企業は好不況にかかわらず権限委譲型の組織論を採用しているところがほとんどですが、どんな経済環境でも権限委譲型が良いわけではありません。
不況期にはこの逆の“大政奉還”で権限を上位マネジメントに戻すべき時なのです。

部長は役員に、役員は社長にと、委譲されていた権限を戻し、トップダウンで組織の締め直しをすべき時なのです。
その際トップが可能な限り社員の動きを克明につかみ、現場から目を離してはいけません。
現場、得意先、仕入先などを直接見てまわるという対策をなすべきです。

そして部下にあっては社長や上司が誤った判断をしないように、的確な現場情報をあげていく義務を遂行することが大切です。
これが不況期に大事な考え方です。

成長期の「経営が容易なとき」には権限を委譲し責任も部下に降ろして行って良いのですが、
経営の厳しい不況期では、その逆で「トップが責任を負う体制」にし、トップダウンで経営判断のスピードと質ををあげてゆかなければなりません。
およそ300人程度の規模の会社であれば、新規事業においてもトップの決断で進めてゆくことが経営効率上においても望まれます。

また不況期の注意点としては、いろいろなものにエネルギーを散らさないことも重要です。
多角化戦略は成長していくときに将来のリターン、果実を期待し苗木を植えてゆく考え方です。

不況期はとかく苦しい時期であるために「何か全然違うことをやればあたるのではないか」と、思いつきでいろいろなことに手を出したくなる誘惑にかられることがあります。

しかしこの判断は業績悪化のもとになりますので慎むべきです。
不況期の対策としては「いちばん高収益体質を持っている部門、あるいは商品」を伸ばしていくことが正しい手の打ち方です。
いちばん強いところをさらに強くすることに全力を投入し、むやみな拡張はしないことです。

さらに不況期はとかく「経費削減」に走りたくなりますが、この方法では企業体力自体が弱り「いざ業績回復」というときに、リバウンドする体力そのものを失う恐れがあります。
もちろん適切な経費削減は必要ですが、考え方として最も大事なことは「最強の部門、いちばん収益をあげている部門を徹底的に強くする」、いわゆる「集中と選択」です。

守備はとても大事ですが、守備だけで勝ったサッカーチームもなければ野球チームもありません。
企業もまた然りです。攻撃をしなければ得点は入らず、収益もあがりません。
この意味で不況期には直間比率を変え、収益をのばすために直接部門の人数を増やすこともよく採用される打ち手です。

要するに“商売部門”、つまり売上や利益を生み出す直接部門へのリソース配分を高め、売上・収益拡大のための行動の質と量、スピードをあげることが重要です。

厳しい不況期に、守備を固めつつ攻撃も打つ。
これを実現するには、守備と攻撃の「集中と選択」が重要となります。

経済環境自体は、私たちの自助努力で好転できる範囲のものではありません。
しかし考え方としては「世界大恐慌の時でさえ成長した会社はあったのだ」という積極的なマインドセットがとても大切です。
自分の会社がうまくいかない理由を、一般的な環境要因のせいにしても仕方のないことであるならば、自助努力の範囲の中でどうしてゆくかを考えてゆくべきです。

松下幸之助氏は「好況よし、不況さらによし」と言いました。
松下氏は「不況期は、何をやってもうまくゆく好況期には気づかない経営の脇の甘さを教えてくれる」という逆転の発想を持っていました。

松下氏はこの経営の悟りで経営者が不況期に戒めなければならない2点、
「見通しの甘さ(人まかせ型、運まかせ型)」と「お人好し(適材適所が断行できない)」を克服しています。
そして強い社会的公的使命感で、心を鬼にして不況期の経営を乗り切ったとの逸話があります。

好況期は経済全体が成長しているため、何もしなくても売上が伸びてゆきます。
このため本当は「まずい経営」をしていてもそれが露呈しない場合が多いのです。
しかし不況期には「経営者の本当の実力」があらわれてくるものです。

これらは会社を例にとってのコメントです。
しかしながら、「数名の人」がいれば、それは組織です。
どんなに小さなチームでも、家庭の経営でも「原理原則」は同じです。

筆者も「経営の原理原則」について大局観を磨き、判断力を磨く努力を継続してゆきたいと思います。

(紺)